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地域行事「お大師さん」に行きました

海士町には古くから「お大師さん」と呼ばれる地域行事があります。

地域の方々による接待(おもてなし)が豪華なこの行事は、地区住民の重要な交流の場になっているようです。長年地域で守り継がれてきた「お大師さん」の今を書き留めます!


1. お大師さんとは

「お大師さん」とは、旧暦の3月21日にあたる、真言宗の開祖・空海(弘法大師)の命日です。親しみを込めた「お大師さん」という呼び方が、そのまま命日自体を指すようになりました。海士町では町内の寺やお堂にお大師さんの像が祀られており、島民は静かに手を合わせた後、地区の方々が振舞うお食事を囲み歓談する風習が長く続いています。

教育委員会スタッフは、数ある会場のうち4か所へお邪魔しました!

海士町の地図

2. 当日の様子

<①保々見(ほぼみ)/ 清水寺(せいすいじ)>

最初に訪れたのは町東部に位置する保々見地区。集落から海士方(あまがた=島の北部)へ抜ける山道を少し進んだ閑静な場所にある清水寺は、境内に日本名水百選・天川(てんかわ)の水が流れる海士の名所です。

涼やかな水音に誘われながら、石段を上り本堂へ

地区の当番の方に迎え入れられながら、まずは絢爛豪華にお祀りされた御本尊へご挨拶。心が静まります。

本堂の中では、地区の奥様方が炊いた豆ごはん(うるち米版の赤飯)とお茶を頂きました。ボリュームたっぷりです!

お仕事中なので日本酒は遠慮しました。残念…!

一息ついたところで、前区長さんに清水寺のお話を伺いました。

御本尊の「聖観音菩薩立像」は島根県の文化財に指定されており、1200年前に作られた大変貴重なものだそう。廃仏毀釈の危機に際した時代、当時の方が家の納屋にこっそり御本尊を隠したおかげで、今も焼かれずに現存しているという言い伝えがあります。

ちなみに今年の10月18日に御開帳があり、御本尊を拝めるようです。海士町民の皆様、この機会に清水寺へ行ってみてはいかがでしょうか?

<②北分(きたぶ) / 角山・津能山(つのやま)>

次いで訪れたのは海士町の北端・北分地区。地形の高低差が激しく、上下にうねる道のりが特徴の地域です。車道脇斜面の石段を上ると「教海寺」というお堂が見えます。その周りを囲む山を「角山(津能山)」と呼ぶことから、教海寺近辺も併せて山の名前で通っています。

お堂で和やかに談笑する奥様方。お大師さんは右奥です

お堂の中では地区の奥様方がお茶菓子を準備し、暖かく出迎えてくださいました。清水寺と同様にお大師さんへ手を合わせた後、人の輪へ混ざります。

机中央に並んでいるまき(カタリの葉を巻いた、柏餅のような見た目のお菓子)とカステラは、この日のために手作りしたそうです。やさしい甘さとともに、もてなしの心遣いが身に沁みます…!

しばらく経つと、小学生が校外学習にやってきました。

敷地の隅から隅まで、興味津々です

子どもたちは敷地内を自由に見て回り矢継ぎ早に質問します。「なんでここ(この寺)を始めたんですか?」「お金(お賽銭)は何に使うんですか?」などの疑問に対し、地域の方が一つ一つ丁寧に教えていました。

私も子どもたちの溢れるエネルギーを間近に受け、元気をもらいました!

<③北分(きたぶ) / 唯(ただ)>

続いても同じ北分地区ですが、今度は山と海が隣接する開けた土地・唯。お堂やお寺が、ひとつの地区内で複数か所あるパターンも多いのです。

お堂では地域の方が念仏を唱えておられました。一同、お大師さんへ心を込めてご挨拶します。

つのやまで会った小学生も一緒です

多々は少人数の運営ゆえ、ひときわアットホームな空気に包まれます。テーブルには豆ごはん、ちらし寿司、煮物、刺身と、彩り豊かなラインナップです。(お刺身は、朝に網で捕ったばかりの魚を捌いたものだそうです!)

身を乗り出し語りかける地域の方に、子どもたちも釘付けです

食後は地域の方の力強い語りに耳を傾けます。過去に地域で起こった出来事や波乱万丈の体験談などを話す表情は生き生きと輝いていました。また、話の合間で地域の奥様が解説と笑いを挟み、盛り上げてくれました。

海士弁のため筆者はうまく聞き取れなかったのが惜しいですが、笑いの絶えない活発な場に心が弾んだひとときでした!

<④宇受賀(うずか) / 豊子(ていし)>

最後は北分地区の隣、農地が広がる宇受賀地区。山々に囲まれた豊子へ向かいました。辿り着いたのは、入り口の柱に木造の獅子がついている特徴的なお堂。中は果たしてどうなっているのでしょうか…?

縁側からは見晴らしの良い景色が望めます

さっぱりとした外観とは反対に、手作りの飾りつけが華やかな空間が広がっていました。丁寧に祀られたお大師さんに手を合わせ席につきます。

お食事は毎年同じメンバーで準備するため、奥様方の洗練された連携プレーが見られます

テーブルには、ちらし寿司、天ぷら、きんぴらごぼう、マカロニサラダ、漬物3種と、実家を彷彿とさせるメニューが並びます。

「田舎飯だからごめんね」と謙遜されていましたが、むしろそうした家庭的なぬくもりこそ筆者が求めていたもの。来島して日の浅い私に、居場所感・安心感を与えてくれました。

畳の間や奥の台所、縁側と、お堂内全体に複数の輪ができ、会話に花を咲かせる奥様方。教育委員会一行も会話に混ぜていただき、海士の言葉や他地域の方言の話などで盛り上がりました。

和やかなやり取りに地域の結束を感じる現場でした!

3. 発信者から

お大師さんの現場、いかがだったでしょうか?地区ごとに色が異なり、小さな地域の中にも多様性が見られる取材となりました!

清水寺にいらした前区長さんのお話によれば、この風習は子ども時代から既にあり、先祖代々受け継ぎ続けているとのこと。一体どれだけ昔に始まったのでしょうか、想像するだけでロマンがあります。

また今でも盛大な催しに見えますが、コロナと人手不足が原因で以前より小規模化した状態というから驚きです。

時代の困難を乗り越えてなお、こうして地域の関係性がつながり続けていることに大きな価値を感じました。

>執筆:須田
島前地域の制度「島体験」を利用し、インターン生として海士町教育委員会地域共育係で働いています。